【怨念・呪術話】ママ友の恨み【#恐怖体験】【#怖い話】【#夏のホラー冬のホラー】

重野さんは当時四歳の娘さんがいた。
今から三年ほど前だが、旦那さんの転勤により都内某区に引っ越すことになったそうだ。
実家から離れた場所で、友人も近くにいない。
心細い重野さんを迎え入れてくれたのは、娘が通い始めた幼稚園のママ友たちだった。
中でも菊川さん、菊ママと呼ばれる四歳年上の女性は勝手のわからない重野さんの面倒をあれこれ見てくれたそうだ。
当初は感謝しきりで、なんて自分は環境に恵まれているのだろう、そう思えた。
しかし接していくうちに、彼女の側面が見えてきた。
自分が一番でないと気がすまない性格だったと気がついたそうだ。
他のママ友も、よく見ていると菊ママを立たせるような扱いをしていた。
行事を決める際もランチ会の場所を決めるのもすべて菊ママだった。

「独身の男性(私のことだ)にはわかんないと思うけど、猿山の大将みたいな、ボスママって存在がいるのよ」

菊ママの旦那さんは大手企業に勤務されているようで、常日頃からそのことをさりげない形で自慢するという。

「主人の会社ってこんなお手当てがあってちょっと感動したの」
「会社の旅行に招待されちゃったから、違う日にしよ」
「うちの主人もよくお歳暮もらってくるの。食べきれなくて大変よねぇ」

そのくせに重野さんのものを借りたまま返さない。
催促すると、「あら~あれくらいいいじゃない。重野さんって案外ケチねぇ」
と返される。

ランチの際は割り勘なのだが、細かい端数を「ちょっと出しといて」と出させる。
小額だが返ってきたためしはない。
しかも相手は決まって重野さんだ。

「ママ版ジャイアンっていえばイメージしやすい?」

重野さんはのび太くんとなる。

当然の結果だが重野さんは彼女からなるべく距離を置こうと試みた。
クラスのランチ会などの集まりには極力顔を出さないようにする。
遭遇しそうな公園は避け、子供を幼稚園に迎えにいく時間をズラす。
だが、無駄だった。

距離を置こうとする重野さんの胸中を見透かしているのか、菊ママから直接ランチのお誘いメールが届くようになった。
教えた覚えはないのでママ友の誰かから聞きだしたのだろうと思った。
毎回断るにも気がとがめ、四回目には仕方なく了承したそうだ。
まるで藁を食ってるかのようなファミレスの食事を終えると、菊ママは重野さんに言った。

「ここ、出しといて。代わりに、ハイこれ」

唖然とする重野さんを尻目に菊ママは周りのママ友に、「この間、重野さんが欲しい欲しいっていってた人形、プレゼントしてあげたの~。探すの大変だったんだぁ」と説明した。
差し出された人形は、以前に取り上げられたものだった。
子供が大事にしていたものだったので安堵感からついランチ代を出してしまった。
しかし家に帰ってからよく見ると、人形の背中には菊ママの娘の名前がデカデカと油性ペンで書かれてしまっていたそうだ。

二度と一緒にランチはしない。
ママ友グループからハブられたっていい。
顔も見たくない。
そう決意すると、相変わらず届くメールも読まずに削除することができた。
着信もあったが折り返すことはしなかった。
一ヶ月後くらいだったという。
約束していたご褒美を娘と一緒に買いにいった帰り、菊ママがマンション前に立っていた。
(何の用事だろう……)
背中に冷や水をぶっかけられたような心地で近づくと、菊ママは右手になにかを掴んでいるのが見て取れる。
凝視していた重野さんはその正体に気づいて首を捻った。
ラクガキされた石だった。
顔に見えなくもない。

「その頃になっちゃうと、時間経ってたから怒りも忘れちゃってて……」

訳もわからないまま、とりあえず会釈をしたという。
「久しぶり~元気だったぁ?このところ顔見ないから病気しちゃったかと思ってたぁ」

折り返さない電話の件でグチグチ文句を言われる前に、部屋に入ってしまおうと思った。

「うん、元気だよ。ただこの娘が体調悪くて。すぐ寝かせなきゃいけないの」
「そっかぁ。あ、オモチャ屋行ってきたの?」

相手にできないという、遠まわしの言葉は通じなかった。
「ね、見せてよ」

言うと同時に袋を奪われた。

「可愛いお人形ねぇ。サヤちゃん(重野さんの娘の名前だ)これ買ってもらったんだ。いいわねぇ」

照れ笑いを浮かべる娘に、菊ママは言い放った。

「これ、うちの娘も触りたいと思うの。しばらくの間借りてくね?」
「はい?」
「うん、だからぁ。うちの娘もこういうの好きなの。減りゃしないんだからいいでしょ?」
「困ります。これは娘のものです」

重野さんはオモチャ袋の端を掴んだ。

「あーはいはい。わかってるわよ。これあげるから」

菊ママは右手を差し出した。
やはり石だった。

「はいよ」

放り投げられた石は、娘の頬にあたる寸前でキャッチできた。

「菊川さん、何を考えてるんです!石もらったって困ります!」

娘さんは大人二人の剣幕に、大粒の涙を浮かべていた。

「だーかーらー借りるだけって、言ってる、だろお!あんたバカなのか!キチガイなのか!」

菊ママの瞳には狂気が宿っているように見えた。
――娘に危害があってはいけない。
ただその一心でオモチャ袋を差し出したそうだ。
その場に残されたのは石と子供の泣き声と、ズタズタにされた自尊心だった。

取り返したいという気持ちもあったが、再び菊ママと対峙する気にはならなかった。

「あんな人、異常者に思えて怖いし……それに大きい声って苦手なのよ私」

心からの怒りも、菊ママの気迫に、萎える。
しかしSNSで菊ママのページを見つけると、そこにはいかにも幸せそうな主婦の日記があった。
「ママ友からこんなの貰っちゃった~★バンザーイ∩(≧∇≦)∩」
アップされてある写真は重野さんから奪った人形だった。

「それ見たら悔しくて悔しくて涙が出てきちゃって……」

重野さんは怒りの末、呪いをかけてやることを選択した。

「学生のころ、友人から聞いたやり方を思い出して」

呪術方法の細かい手順と絶対に必要な要素の情報は省く。
重野さんがとった行動をざっと説明するとこうだ。

墓所から形のいい石を選別して、回収する。
石ノミとハンマーを用意し、対象の名前を彫る。
この際、文字は雑で構わない。
重野さんは石を菊ママ宅のポストの下に埋め込んでおいたそうだ。

朗報は秋にやってきた。
菊ママの自慢である、大手企業の人事部に勤める旦那が逮捕された。
罪状は強制わいせつ罪。
つまるところ痴漢だ。
噂は瞬く間に広がった。
グループから離れている重野さんの耳にも届いた。
幼稚園に娘を迎えにいくと、伝染病患者のように菊ママは遠ざけられていた。

「普通の会社だったら解雇よね。一戸建てだったのに、菊ママどうするのかしら」
「パートにいくんじゃない?さんざんパートさんのこと見下してたけど」
「犯罪者が近くにいると、怖いわねぇ」

かつての菊ママの取り巻きたちは、まるでずっと仲が良かったかのように重野さんを交えて話し始めたそうだ。
溜飲を下げた重野さんは、菊ママ宅に埋めてある石の回収に向かった。
白い石灰岩のはずが、赤黒く変色していたという。

「やりすぎかなって思ったけど、因果応報よ。ざまぁみなさいって感じ」

私は背筋に冷たいものを感じながら頷いた。
そして最後に、気になっていたことを質問した。

「ちなみに、その学生の頃、重野さんに呪いの方法を教われた方って、連絡とれますか?できればその方にもお話が伺えればと思うのですが……」

んー、と重野さんは困った顔を浮かべた。

「二十歳になる前に、死んじゃったの、その子。自殺しちゃった」

この話をまとめ終えた今、少し嫌な予感がする。

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